No.6


   


          本当に、偶然だったと思う。
          5月も半ばという時期に。
          ホグワーツの城のそばにある湖のほとりで。

          グリフィンドール寮の同級生のひとりが、
          湖に向かって足を投げ出して座っていた。

          大きすぎもせず、小さすぎもしない背中。
          思うさま風に揺らされている鳶色の髪。
          その後ろ姿は、どこか儚げで、どこか怒りを含んでいるようだった。

          そのまま放っておくのも親切だろう、
          シリウスは手にしていた煙草をもてあそび、
          踵を返す。
          ふいに出来た時間を、空気の良い場所でのんびりしてみようかと
          気まぐれに訪れた先で、まさか親友を見つけるとは思わなかった。

          親友になってしばらく経つが、まだよく分からない部分が多い人間。
          もっとも、上流階級育ちで天才肌のシリウスにとって、
          よく分からない人間など余りあるほどいるわけだが。

          別の場所を探そうと足を踏み出したとき、
          ややかすれた声に呼び止められた。

          「シリウス?」

          いつの間にかこちらに振り向いている鳶色の髪の少年が
          長めの前髪を軽くかきあげながら、笑みを見せている。

          「ああ、やっぱりリーマスか。邪魔したか?」
          「そんなことないよ。シリウスは女の子と待ち合わせ?」
          「いや、今日はそんな約束ないし・・・」
          シリウスは手にした煙草をちらりと見せた。
          「そう」
          リーマスは納得してくれたようだ。

          「なあ・・・なにか悩み事でもあるのか?」
          普段見せないリーマスの影を見てしまった気がして、
          シリウスは聞きたくなった。
          少し驚いたようだが、リーマスは自嘲気味に答える。

          「僕自身の問題だから」





          ふいに、シリウスの体内に何かが流れた。
          ふつうなら、「そうか」と納得し、聞き流すところだろう。
          個人の問題に、望まれてもいないのに滅多やたらと口を出すものでもない。
          そういうものだと思っていた。
          それなのに、何故か自然と感情が先に動いた。
          「なんでも言えよ」
          ・・・と。


          「おせっかいだね、僕の何に興味を持ったっていうんだ」
          思いがけず怒気を孕んだリーマスの言葉に、
          とっさにシリウスは妙な違和感と眩暈を覚えた。
          「そういう言われ方されて平気でいられるほど俺は大人じゃないんだが」
          自然、シリウスの怒りの表情があらわになってくる。
          「邪魔じゃないか、ちゃんと聞いただろう」
          「僕の問題に無闇に踏み込んでもらいたくないんだよ。
           なに逆切れしてるの。
           ・・・言い方がちょっと悪かったのは謝るけど」

          リーマスの表情は、やや冷たかった。

          あきらめ。
          放棄。
          苦痛。

                    ―――――言えるはずはない。
                    ―――――自分が人々から忌み嫌われる人狼であることなど。
                    ―――――満月期ごとに思い知る、自分の体内のケモノの血。
                    ―――――狂気と平穏の波に飲み込まれながら過ぎてゆく歳月。




          なんとなく――
          そう、ただなんとなく直感的に、シリウスはリーマスの内にあるなにかが
          少し見えた気がした。
          まだ怒りの興奮は冷めやらなかったが、別の感情が次第にそれに勝っていった。


          「おまえ、綺麗だよな」

          とっさにシリウスの口から漏れた言葉はそれだった。

          「はあっ!!?」

          あまりにも突飛過ぎる展開に、リーマスから今までのかたくなな表情が消え、
          いつもの友人の顔に戻った。
          いや、それを通りすぎるくらいの動揺が伺える。

          「なに言ってんのいきなり!!
           何僕、そんなに衝撃的なこと言った!?」

          シリウスがやや紅潮して自分をまっすぐ見つめている。
          思いっきり目があってしまい、リーマスは心臓がどきりとするのが分かった。

          「えっ、あ〜ほら!煙草!その辺に落としておかないでよ、
           危ないし、環境破壊!」

          早口で捲くし立ててみる。

          だがそんなリーマスの焦りは空回りし、何時の間にかシリウスの腕の中に
          押さえ込まれていた。



          「なにするんだよ・・・
           やめなよ僕なんか泥臭い人間―・・・なんだから」




          やがて腕の中での抵抗をやめ、しばしシリウスの体温を心地よく受け止める。


                    この暖かさは――――――

                    ―――――――なんだろう、落ち着く・・・・・・?



          シリウスはシリウスで、自分で計り得ない熱のなかにいた。
          自分でもどうしたのか分からない。
          ただ、こうしてみたかった。
          こうしてやりたかった。
          腕の中にリーマスを繋ぎ止めた瞬間の満たされてくるこの気持ち。
          静かに、口を開いてみる。

          「やっぱ、女の子とは違うよなー。
           骨ばってるし。
           でもなんか、ふわふわして柔らけー・・・」




          ぼぐっ!!!


          突然シリウスはアッパーカットを食らい、
          さらに突き飛ばされて草地に倒れこんだ。
          とっさに受け身をとって辺りを見やると、
          すでに数メートルは離れた先でリーマスが警戒心あらわに
          こちらを見やり顔を真っ赤にして叫んだ。


          「あほっ!!」


          そのまま両手をわななかせ、立ちすくんでいる。
          彼の体の中にはさまざまな感情が激しく渦巻いていた。
          「なっ、なっ、何考えてんだよっ、僕は女の子じゃないよ!?
           あんまり失礼なことをしないでくれ!」

          シリウスも殴られた拍子に我に返ったのか、
          少し慌てているようだ。
          「あ――――ごめん、ごめんな!
           ・・・・・・・・・・・プライド傷つけたか?」

          「当たり前だろう、今度こんなことをしたら・・・」

          リーマスの顔が、赤く、そしてわずかに涙ぐんだ。


          絶交でも言い出されるかと、シリウスの内心はびくびくしている。
          こんなことで、これから長い時間をいっしょに過ごす
          同じ寮の親友と険悪になるのは下らな過ぎる。
          抱きしめたくなったからそうしたんだ、リーマスは潔癖すぎやしないか?
          そりゃ、よこしまな気持ちが少しも入らなかった友情ハグだとは言いきれないが。

          しばしの沈黙を経て、リーマスが微かに震えながら言う。



          「・・・ごめんシリウス、混乱しちゃって。
          たいした理由なんてないんだろ」



          リーマスにはリーマスなりに、怒る理由があるはずだった。
          まさか親友に女の子扱いされるとは思わなかった。
          自分は男なんだから、それなりの男としてのプライドがある。

          だが―――それ以上に―――ー

          こんなにもやさしい抱擁を受けたのは、いつ以来だったか。
          こんなにも、自分を認めてもらえたのはいつが最後だったか。

            ――――シリウスは、まだ自分が人狼であることを知らない。
          それに対する後ろめたさを差し引いても、
          心の奥底では――――嬉しかった――――?

          不意にシリウスを失いたくないという感情が沸き起こり、
          ためらった結果が、先ほどの誤魔化しと云えなくもない言葉として発せられた。
          根が明るく人懐こい、それでいて白黒ハッキリしているシリウスには、
          憧れに似た感情すら抱いている。

          リーマスの突き放すような言葉を最後に
          ふたりは暫し時間の流れに身を任せるしかなかった。





          「ん?」

          静寂を打ち破ったのは、リーマスだった。

          「あ――――っ!!
           ばかシリウス!危ないって注意しただろ!?
           煙草!火!」

          何時の間にか、シリウスが落とした煙草から火が燃え広がっている。

          「なんでこんなに勢いがあるんだよっ」
          リーマスが発火地点に慌てて駆け寄る。

          「なんだこりゃティッシュに燃え移ってるぞ?」
          リーマスに続いて現場検証するシリウス。

          「う・・・さっき僕が鼻かんでたティッシュかも」
          意外なリーマスの告白にがっくりと肩を落とすシリウス。

          「まあいい、広がらないうちに消すぞ!!」
          素早くシリウスはシャツを脱ぎ、消火活動にあたろうとする。
          「ええとなんだっけ、水を出す魔法!」
          「んなこと考えてる間に窒息消火させりゃいいんだよっ」
          「あああ〜、君はどうしてそう猪突猛進なんだよ、僕たちは魔法使いだよ!?」
          「おまえはどうしてそう、ぐだぐだ考えて自分の足ひっぱってんだよ!」
          「信じられないよ本当に、もうっ!!」


          つい先刻までの軋んだ空気はどこへやら。
          二人はボヤを大声でわめきながらも、どうにか消し止めることができた。

          二人そろってしゃがみこみ、ほっと一息をつく。

          「シリウス〜火傷したね?
           もうちょっと慎重に行動したほうがいいよ、いろいろと」
          「あ―――火傷しちまったな。シャツもコゲたし。
           最初水につけてからやりゃ良かった」
          「・・・いや、だから僕ら魔法使いなんだから・・・」

          シリウスの実直さや不器用さを改めて知り、
          リーマスは複雑な笑みをもらした。

          「・・・大丈夫?早くマダムの所へ・・・」
          「リーマス」

          城へ帰ろうと促すリーマスに、シリウスが視線で待ったをかける。

          「うまく言えないんだけど、その―――ふざけてたつもりはないんだ」

          シリウスの目は真剣そのもので。
          自身の戸惑いはあるようだが、その言葉に嘘がないことは容易に見て取れた。

          そんなシリウスの様子を見て、リーマスの胸は軋む。
          嬉しいような、悲しいような、切ないような―――――


                    ――――それでも、やはり―――――



          「だめだよ――――こんな火傷じゃすまなくなる」



                    ―――――喉が、枯れそうだ―――

          目を伏せて、リーマスは城へときびすを返した。




               ココカラハジマル、モノガタリ――――――――――――――――――――





     *******************************************************************************

          リーマスだって、鼻かみます!(><)
          タグ打ち疲れた!どうして私、ソフト使わないの!くぅ!


          ―――それはさておき―――

          1年生の終わりくらいのマイ設定で書いてみました。
          「シリル」の「ファーストコンタクト」的なイメージで。
          ほんっとうに久しぶりの小説アップです、如何でしたでしょう(ドキドキ)?

          書きながら、表現の仕方についてアレコレ考えたりもしたのですが、
          本人の知識不足が相当祟っています(^^;)
          漫画もだけど、小説も書くの難しいわ!!!(楽しいけどv)

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